お酒大好き公認会計士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

PCデポの財務数値を、会計監査的に増減の要因分析をしてみました。

 芸能関係で色々重大ニュースがあった、2016年8月24日ですが、Yahooニュースをはじめとして、PCデポ関連の記事が多数出ていますね。すごい盛り上がっているので、株価も含めて関心事の一つになっています。

 今まで有価証券報告書で開示されている数値を全く見たことなかったです。会計監査人は会計監査をするに当たって、監査を通じて得られた情報を基に何時間もかけて数値の総括的な分析を実施するのですが、私は何も情報を持ってないので、10分くらいで超簡易的に財務分析をしてみました。いわゆる、当たりをつける、というやつです。対象は2015年3月期と2016年3月期の比較分析です。

 投資家が行うROAROEとかそういう分析ではなくて、数値の増減はどういう理由で生じているのか、増減は矛盾あるものではないか、何か問題はないか。などなどを感じたままにコメントしています。従って、事業が適切であるかとか、会社は誠実に行動したか、とかいう事業の妥当性については全く言及していません。開示された情報のみからコメント・推測しています。

 

f:id:umekisan16:20160825012618p:plain

 特に気になる部分について、黄色で塗ってみました。一番気になるところは売上原価です。売上も伸びていますが、売上原価の減少がすさまじいです。この会社はもともとPCや附属のパーツを販売する会社だったと思うのですが、同じように営業をしていれば、そんなに売上原価や売上総利益率は変化しないはずなので、ビジネスモデルが大きく変わった=サポートサービス中心の営業に変わった、と読み取れます。これは、開示されている情報で、会社も重要事項として大きく発表していますね。

 営業利益はセグメント情報を参照しました。インターネット事業は概ね同水準ですが、パソコン事業の利益が大きく増加していることがわかります。やはり、原価のかからない、サポートサービスに力を入れていることがわかります。それに伴い人件費も増加しています。

 次は、BS側から回転期間を見てみます。まず、売掛金の回転期間が大きく延びています。PCやパーツの販売であれば、現金あるいはカード払いなので、回転期間は1か月程度になるはずです。一部、リースやレンタル的な事業を行っており(ネットでは文句を言われまくっている事業です…)、引き落としが年に1回ということなので、回転期間が延びているのでしょうか。或いは、請求額の支払いに対して揉めている契約もあるのかもしれません。監査人としては、売掛金が回収できるかどうか、経営者は回転期間の長期化についてどういう見解を持っているのか、といった点が重要な論点になります。

 買掛金と回転期間ですが、これも大きく減少しています。モノを仕入れて販売する、というビジネスモデルが続いていれば、そんなに変化することはないのですが、減少しているということは、モノの仕入れが減っているということの現れです。

 最後に、色は塗ってないですが、棚卸資産の回転期間が変化していません。普通は仕入れが減れば、モノである棚卸資産も減るはずです。もしかしたら、長期間ではないものの販売できずに滞留気味のモノがあるかもしれません。会計のルール上、売れないモノは一定の月日が経過すると、資産の評価を減少しなければならず、売上原価として計上されます。将来的には収益性を悪くする要因になるかもしれません。棚卸資産の評価が適切に実施されているか、が重要な論点になります。

 どうでしたでしょうか??会計監査をするに当たっては、投資家の人が行うような、儲けを中心とした分析とは異なる見方をしています。増減分析は監査のほんの一部分・一側面ですが、そうなんだー、と思ったとか、当たり前だろ、とか思っていただけたら嬉しいです。

 

 

 

PCデポの開示情報を見て思ったこと

 PCデポの販売方法が取り上げられて、ネット等での盛り上がりがすごいことになっていますね。株価も1週間前は1,400円でしたが、一気に1,000円まで下落していました。PCデポ東証一部の会社なので、有価証券報告書等で事業の内容や業績が公表されています。この会社の販売方法がいいか悪いかは横に置いて、会計士としては、どのような開示がされているかが気になったので見てみました。

 平成28年3月期の有価証券報告書の業績の概要を引用しています。ちょうど、中段あたりの、『さらに、当社主力の~』という部分が、今回問題になった、解約に際して多額の解約料を請求していたとされるサービスのようです。

f:id:umekisan16:20160821192429j:plain

  ちょっと、気になる部分があります。『デバイスや周辺機器を含むサービス一体型商品の拡大を図りました。』提供しているサービスは、保守契約だけではなさそうです。リースかレンタルもやっているのかな、と思いながら某掲示板を見ると、ニュースがありました。

 例えば、5TBのHDDを買うと、1TBはHDDの現物で、残りの4TBについてはクラウド上のHDDがついてきて、このクラウドで提供されるサービスについて毎年利用料を支払うようです。

 なるほど、リースというかレンタル事業もやっているようですね。どのくらいの規模なんですかね。有価証券報告書からは読み取れませんでした。

 リース会計ではファイナンスリースとオペレーティングリースがあり、それぞれ会計処理が異なります。ファイナンスリースの条件としては、ノンキャンセラブル(契約の解約料がリースした商品を買うのと同等に必要)とフルペイアウト(リースした商品から得られる経済的な利益と費用をリースの借り手が実質的に負担すること)を満足する必要があります。詳細な契約がわからないので予測になりますが、先ほどの取引でいうと、クラウドのHDの利用をやめることは可能でしょうから、ファイナンスリースには該当しなさそうです。この場合はオペレーティングリースになります。

 ファイナンスリースでもオペレーティングリースでも、リースの貸し手側は、リース資産の金額をBSに記載する必要があります。下の表は芙蓉総合リース株式会社の平成28年3月期のBSです。

f:id:umekisan16:20160821202834j:plain

 賃貸資産と社用資産と書かれているので、リース事業用と自家使用で固定資産を分けていることがわかります。次の表は、PCデポの平成28年3月期のBSです。特に分別がされていませんね。

f:id:umekisan16:20160821202436j:plain

 次に、重要な会計方針を見てみましょう。下は芙蓉総合リース株式会社です。こちらも、リース用と自家使用の固定資産で減価償却の方法が違っていることがわかります。

f:id:umekisan16:20160821192457j:plain

 こちらは、PCデポの重要な会計方針。減価償却の方法は分けられていませんね。

f:id:umekisan16:20160821192420j:plain

 という訳で、リース資産の”リ”の字も有価証券報告書には記載がなさそうです。違和感を覚えないこともないですが、きっと理由があって記載していないのでしょう。例えば、事業に占める割合がとても小さいので、記載していないのかもしれません。あるいは、私の取引の捉え方が全く見当違いなのかもしれません。

 会計監査は、それぞれの取引の内容や契約を詳細に検討して、決算数値が正しいことを証明する業務です。検討することは多種多様に亘り、上場会社では年間で延べ何千時間もの作業が必要になります。従って、全くの外野の人間がとやかく言うものではありませんので、この辺でStopしておきます。