お酒大好き公認会計士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

日本M&Aセンターの調査委員会報告書に覚える違和感について

先日、M&A仲介最大手の日本M&Aセンターで過去5年間で83件の売上高不正計上が発覚したということで、2022年2月14日に調査委員会報告書が公表されています。今年は大企業で目立った不正が多いな、と思いながら報告書を読んでみたのですが、読んでいると違和感を覚えずにはいられませんでした。かなり大きく報道されていますので、読んだ方も多いと思いますが、皆さんどのように思われたでしょうか。大きく4点ほどあります。

 

①調査委員会のメンバーに監査等委員である社外取締役が選出されていること

この調査委員会の立ち位置がまず良くわかりません。外部の弁護士を中心に調査をされているのですが、日本弁護士連合会の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿ってメンバーが選定されているかがわかりません。同ガイドラインには社外役員は、直ちに会社と利害関係を有するとするのではなく、ケースバイケースで判断するとあります。

今回の場合はどうでしょう、監査等委員はあまり聞き慣れないかもしれませんが「取締役」です。従って、取締役会では議決権を有しており、毎月の取締役会で起案される議案に賛否の意思決定を行っているため、いくら社外取締役とはいえ、利害関係が無いというか、当事者そのものではないでしょうか。なので調査委員会の立ち位置がよくわかりません。

また、監査等委員による監査が実施されるのですが、監査等委員監査は取締役会により決議された内部統制システムを利用して監査を行うこととなっています。調査委員会報告書では再発防止策の提言も大きなテーマとなるのですが、有効な内部統制システムを構築するための具体的な提言がなされています。つまり、有効でない内部統制システムを利用して監査をした立場の人間が、再発防止策の提言を行っており、どんな立場で提言しているのかがよくわかりません。(自らへの戒め??)

 

②不適切報告に「架空案件」は無かったという結論

83件の取引について不適切な報告があり、うち70件については期ズレで売上が計上されたものの、13件については、一旦売上を計上して(取引の不成立等により)最終的に売上を取り消したということです。

報告書ではここをさらっと流しており、売上計上してから何らかの理由で売上取消をする実務となっていた、と記載されているのですが、監査法人と合意している筈ですが、このような売上計上自体が問題にならないことが不思議です。最終契約書の締結時点とディールブレイカーと呼ばれる取引が不成立となる時点を各担当者が判断した時点で役務提供が完了しているとのことですが、結局13件は取引が流れたり入金がなかったりで売上が取り消されています。

一般的にも収益認識基準的にも、一度売上を計上すれば、よっぽどのことが無い限りは売上を取り消すことはないのですが、13/83=15.6%もの取引が取り消されていて、架空売上とはいわないのですね。収益認識基準の当てはめは専門的すぎるので割愛しますが、事実として売上を計上できないにも関わらず、売上を計上することが架空売上だと捉えているのですが、私の感覚は違うでしょうか。これこそ不正会計の温床になるべきものだと思いますが・・・

 

③不正の発生要因がピンと来ない

経営陣は今回の不正に関しては一切の関与が無かったという結論となっています。481名のうち約80名が関与しており、組織的な不正であることは間違いありません。ただ、発生要因は個人的なインセンティブは寧ろ副次的なもので、部や個人としての業績達成を行い経営陣の期待に応えたいという心理的な欲求が重要な要素となり不正を行ったとあります。

不正を分析するときには不正のトライアングルという有名な理論があります。機会、動機(プレッシャーやインセンティブ)、正当化という3つの要素で考えるのですが、組織的に不正が行われておりますので「機会」はあります、部門や会社のために(嫌々ながらも)不正をする、そもそも余り悪いとも思っていない「正当化」があります、ただ、「動機」の部分は会社は急成長していて経営陣の期待に応えたいという心理的な欲求があったため。となるのですが、普通の精神状態であれば、経営者の期待に応えたい、「コロナに負けない」「コロナを言い訳にしない」という思いで営業部長を始めとして80名もの社員が不法行為を行うまでには至らないように思うのですが、本当の所を勘繰ってしまいます。

 

④再発防止策を受ける側の監査等委員が、再発防止を提言することにやっぱり違和感

再発防止策の9番目に監査・監督部門の体制強化、とあり、内部監査担当者は他部署を兼務している2名のみで、この体制では実効性のある監査は難しいとされています。

子会社や持分法会社が14社あって、従業員が800名以上いるのに兼務2名では脆弱と言わざるを得ないでしょう。ましてや、インセンティブ報酬が発生する給与体系となっているため、売上に関連する内部監査は特に重点的に実施する必要があるはずですし、内部監査が適切に実施されていれば、今回の不正は防げた可能性が高いと思われます。

また、監査等委員との定期的な報告に加え、適時報告の機会を設けて緊密な連携を図ることや、内部監査室の監査内容について、取締役会への定期的な報告等が必要である、というような趣旨のことが書いているのですが、これは内部監査と監査等委員監査をする上で必須の手続きなのですが、これまでなされていなかったのでしょうか。

有価証券報告書を見ると内部監査や監査等委員会監査はばっちりできている体制となっているようですが、実態としては監査等委員会の監査手続(少なくとも内部監査が適切に実施できていない状況を是正できていない)としても不十分だったように見受けられます。なので、自ら再発防止策を提言するのって、どうなのかな、と思ってしまいます。

 

少し話の趣旨は変わりますが、日本M&AセンターはJ-Adviserの資格を有しています。TOKYO PRO Marketへの上場を目指す企業は、東証に代わってJ-Adviserの上場審査を受け、審査をパスすればTOKYO PRO Marketへ上場することができます。

上場を目指している会社に不正を許さない内部統制の構築を促したり、内部監査を適切に実施するように、というようなことを指導していくわけですが、自身が組織立った不正会計という反市場行為を行い、この先どのようにクライアントに対応していくのでしょうか。東証としてもどういう対応を取るのかが気になります。