お酒大好き公認会計士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

平成29年3月期から、決算短信・四半期短信の作成要領が改定されます。自由度の向上は実効性があるのか?投資家への影響は?

 先般、東京証券取引所から、決算短信・四半期決算短信作成要領等が改定されて、平成29年3月期から適用されることが、発表されました。

 以下のような趣旨により改定されることとなりました。

政府は、『日本再興戦略』改訂 2015 において、持続的に企業価値を向上させるための企業と投資家の建設的な対話を促進する観点から、企業の情報開示について統合的な開示の在り方を検討することを求めています。これを受けた金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループは、会社法金融商品取引法、上場規則に基づく3つの制度開示について、全体としてより適時に、よりわかりやすく、より効果的・効率的な 開示が行われるよう、開示に係る自由度を向上させることを提言しています(2016年4 月 18 日)。 そこで、当取引所では、決算短信・四半期決算短信(以下「短信」といいます。)の様式について使用強制をとりやめることで、自由度を高めることとします。

 この改定の主なポイントとして4点挙げられます。

  1. 表紙ページである、サマリー情報について様式の使用義務を撤廃する。
  2. 短信には速報性のある項目のみが開示される。
  3. 連結財務諸表と主な注記について、投資判断を誤らせる虞がない場合に限り、開示可能になった時点での追加開示を容認する。
  4. 決算短信には監査が不要であることを明確化する。

 この改定でどのような影響があるのか、考察してみたいと思います。

 1点目、サマリー情報の様式は、何年もの間にわたって記載事項が練られており、その結果として、現在の雛型になっています。投資家目線では、どこの上場会社を見ても、必要な情報が一覧性を持って比較できますので、既に完成された領域にあると思います。今更、サマリー情報の様式を自由にしたところで、あまり意味がないように思われます。

 2点目、速報性のある項目のみ短信で開示する、ということで、経営方針や、ひいては連結財務諸表自体も、有価証券報告書や四半期報告書のみで開示可能となるそうです。短信に連結財務諸表が開示されないというのは、にわかに信じられませんが、こんな事をする会社があるのでしょうか。

 3点目、速報性を上げる為、という趣旨でしょうが、重要な事項は織り込んだ上で開示すべきですので、実務的に定着するとは考えられません。無責任な開示は、投資家や利害関係者からの疑念を抱き、企業価値を貶めることになりかねません。

 4点目、こんなことは今更書かれなくとも当たり前のことです。監査法人は、有価証券報告書や四半期報告書に対して、意見を表明するのであって、決算短信について意見は表明しません。ただし、実務的には、短信と有価証券報告書や四半期報告書の内容が大きく異なることは、会社側から非常に嫌がられますので、監査法人と細かく内容を詰めた上で短信は発表されていますし、これからも変わらないと思われます。その意味で、東芝が17年3月期の第三四半期の業績を、監査法人との合意を得ることなく発表したことは衝撃を受けました。

 という訳で、今回の短信の作成要領の改定によって、決算短信の自由度が向上することが、効果的・効率的な開示に実効性を持つのか疑問に思います。あまり意味のない改定に思えて仕方ありません・・・従って、追従する企業も少なく、投資家への影響も少ないのではないかと思っています。

 決算短信の速報性は重要ですが、持続的に企業価値を向上させる、という観点では、情報の正確性が、速報性以上に求められると思っています。

 現在の財務諸表には、税務会計では見られない見積もりの要素が沢山あります。各種引当金、投融資の評価、繰延税金資産の回収可能性、固定資産の減損、訴訟対応 etc…

 見積もりの要素は、財務諸表に与える影響が大きいものが多く、時と場合によっては会社の存続を左右するような事象もあります。速報性を求めるあまり、特に見積もりの要素に関して、監査法人との合意なくして決算数値を発表することは、避けなければならないことです。情報が正確でないために、投資家や利害関係者が深刻な損害を被ることは、あってはならないことです。

 企業の開示情報がどうあるべきかを、改めて考える機会になりました。この改定を受けて、各企業が実際にどのような対応を取るのか、注目していきたいと思います。