お酒大好き公認会計士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

アメックスゴールドのプロモーションに参加しました。雨金祭りのポイントの会計処理と税金について

一部のクレジットカードマニアやポイントマニアに大きな話題となっている、通称、「雨金祭り」ですが、私もこのキャンペーンに申し込んでアメックスゴールドカードを作ることにしました。初年度年会費無料で、公共料金等の支払で最大6万ポイントは本当に太っ腹なキャンペーンだと思います。

クレジットカードマニアというほどでもないですが、ANA VISA GOLD、ダイナース、DELTA AMEX GOLDの3枚を含めて、計6枚カードを持っています。アメックスゴールドの特典で、気になるものもありますので、年会費無料のうちに他のカードと比較しながら使ってみたいと思います。

何故、会計と税金の話を持ち出したかと言うと、5月末までは獲得ポイントに上限がなかったことと、極めて安い出費でポイントが獲得出来るらしく、何千万・何億・何十億ポイントを入手した人がいるとのことです。アメックス側の制度不備もあるのですが、およそ通常ではありえないマイルの獲得です。そうなると、アメックス社の会計数値が歪められる可能性があり、個人の税金がどうなるかも気になります。そもそも有効なポイントなのかという点については、当事者同士の話なのですが、今後のアメックス社の対応も気になります。
(意見の部分は全て個人的な見解です。)
●ポイント制度の企業会計における会計処理について
まずは、ポイント制度について、企業会計における会計処理について簡単に説明します。昔から世の中には多種多様なポイント制度がありますが、ちょっと前までは、あまり統一的な会計処理はありませんでした。日本の会計基準には現在もポイントに係る会計基準はありません。売上をマイナスしたり、販売促進費としていたようです。ちょうど会計士の受験勉強をしていた10数年前からポイントの会計処理について問題に出た記憶があります。

今はどうかと言うと、多くの会社は引当金処理しています。企業会計原則注解の引当金の要件、というめちゃくちゃ古いですが重要な基準を論拠として引当計上しています。4つ要件がありまして、①将来の特定の費用②発生が当期以前の事象③発生可能性が高く④金額が合理的に見積れる。という全ての条件を満たす必要があります。コンピュータが発達していない時代はシステムでの計算が難しかったので、③や④の算定が困難でしたが、今は過去のポイント利用実績をすぐに計算できるので引当処理がされます。仕訳でいうと以下の様になります。

(例)商品を10,000円で現金で販売して1,000ポイントを付与した。1ポイントは1円であり、当期に1,000円の商品に600ポイントが利用され、来期以降に残りの全額が利用されると見込まれる。
【ポイント付与時=販売時】
(借方) 現金 10,000 (貸方) 売上 10,000
【ポイント利用時】
(借方) 販売促進費 600 (貸方) 売上 1,000
現金    400
【期末決算時】
(借方) 販売促進費(ポイント引当金繰入額) 400 (貸方) ポイント引当金 400

国際会計基準だと、結構会計処理が異なっていて、日本基準との違いが面白いのですが、長くなります。他に解説しているサイトもありますので、もしどなたかからリクエストがあれば書くことにします。

アメリカン・エキスプレスは非上場会社ですので、財務数値は公表されていません。が、先ほどの設例の「販売促進費」の所に、相当多額の金額が入ると、営業利益以下の利益を減少させる要因になります。当然、経営者は株主や金融機関等の利害関係者に対して、そのような事態になった経緯を説明する責任を負います。仮に、信じられないほどのポイントの話が本当なら、首は1つで足りるでしょうか‥

●個人が得たポイントは課税されるか?
多くの人が様々なポイントを保有していますが、確定申告している人はいないと思います。何故なら、所得税法国税庁の通達等にポイントやマイルに対する取り扱いの規定がないからです。

①そもそもポイントは所得になるのか、②所得だとすると、何の所得になるのか、③所得だとしていつの時点で課税するのか。という3つの論点を挙げたいと思います。

①について、例えば、ヨドバシカメラのポイントを考えてみます。恐らく他のポイントには交換できないと思うので、ヨドバシカメラでしか使えません。これは所得になるでしょうか?私見では、ヨドバシカメラに対する前渡金に当たるのではないかと思います。何故なら、もらったポイントは次回以降の買い物にしか使えず、ポイント部分は本当は10%割引で買えたけれども、10%部分は次回の買い物の為にヨドバシカメラに渡していると考えるからです。この場合は所得にならないと考えます。
では、ANAのマイルはどうでしょうか。これは、貰った時点で、飛行機のチケットや買い物代として換金できます。換金性が高いために所得になるのではないのでしょうか。

このように、ポイントといっても、それぞれに特徴があり、ポイントの交換なんかも含めると、さらに複雑になります。課税は公平に行うという趣旨を鑑みると、課税庁としても安易な見解は出せないと思われます。

次に②について。ポイントの中には換金性が高く所得になると考えられるものがあると述べました。では、何の所得になるでしょうか。一時所得か雑所得が本命ですが、私は一時所得だと考えます。
一時所得はその名の通り、労務の対価ではない一時の所得なんかをいいます。そして、次のようなものがあります。
(1) 懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)、競馬や競輪の払戻金
(2) 生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
(3) 法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものは除きます。)
(4) 遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金
(3)がばっちり該当しそうです。因みに、雑所得は他の所得のどれにも該当しない所得です。

最後に最も重要な③です。いつ課税するでしょうか、貰った時か、使った時か?色々ありますが、クレジットカードのポイントや航空会社のマイルは換金性が高いので、私は貰った時に課税すると考えます。

一時所得は50万円が控除されて、控除した後の半額が他の所得に合算して課税されます。ということは、時価50万までは無税です。アメックスの1ポイントや1マイルが何円の価値があるかを測定するかが、そもそも論で難しいですが、仮に0.5円としましょう。
ANAで成田からニューヨークのJFK空港までをダイヤモンド会員がファーストクラスに乗って片道22,231マイルです。月2でファーストクラスでNY出張や旅行している人でやっと100万マイルに達成する位です。こんな人世の中にそうはいないでしょう。しかも、課税するには一時所得がそれなりになければならないので、年間数百万マイル以上は稼がないと、税務調査の対象にもなりません。

ということは、そもそも課税できる人が世の中にいない可能性があります。イメージでいうと、カードを年間5億円決済して、飛行機のファーストクラスをバスみたいに乗っている感じでしょうか。この点からも、所得税法等での定めがないと考えられます。

しかし、アメックスの不備があったとはいえ、何千万・何億・何十億ポイントと稼いだ人がいる場合はどうでしょうか。アメックスを始め、クレジットカードのポイントは、様々な方法で、現金やそれと同等なものに換金できるので、得られた所得はすごい額になるでしょう。所得税最高税率は住民税と合わせて55%にもなるので、放置すると相当な税金をとりっぱぐれるのではないでしょうか。また、課税の公平性からも放置はよくないでしょう。

もしかしたら、課税庁から、雨金祭りを受けてクレジットカードのポイントの取り扱いが出ることになるかもしれませんね。ただの個人的な妄想ですが。