お酒大好き会計士・税理士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士・税理士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

東芝-遅れに遅れて2016年度の決算発表。まさかの??不適正ではなく限定付適正意見。政治的な決着が伺えます。

2017年8月10日、東芝の2016年度の有価証券報告書及び2017年度の第1四半期レビュー報告書が提出されました。

東芝は、米国会計基準に準拠していますので、有報の本来の開示期限は決算日から45日なので、80日近く遅れた適時開示ということになります。

報道にもあるように、監査人のPwC あらた監査法人(以下、あらた)は、16年度の決算書について限定付適正意見、同年度の内部統制報告書については不適正意見の監査報告を、17年度の第1四半期については、限定的結論が表明されています。

 

限定付適正意見は、監査論の勉強ではよく学習しますが、現実世界では滅多なことではお目にかかることが出来ませんので、引用してみたいと思います。

 

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かなり詳細に、しかも相当会計について解っていないとチンプンカンプンな事が書かれていますが、簡潔に言うと、限定付意見となった根拠は、WECが16年度に計上した減損損失6,526億円のうち、相当程度ないし全額が15年度に計上するものである(つまり、計上する会計期間がズレている)と、監査人であるあらたは判断したということになります。

東芝は、あらたの判断について真っ向から対立していたのですが、結局、あらたが出した結論を覆すことが出来るような論拠であったり資料であったり、いわゆる監査証拠を示すことが最後まで出来なかったということになります。

東芝の適時開示では、この期に及んで、我々の判断は正しいけれども、あらたに否定されたという旨の記載がされていますが、東芝とあらたの対立の深さというか激しさを物語る異様な文面が見て取れます。

この影響は、内部統制報告書にも及んでいます。上場会社の会計監査人は、監査報告書だけではなく、内部統制報告書という、会社の財務報告に関連する内部統制がうまく機能しているかということについて、会社が判断した評価についても監査意見を出します。

東芝は我々は正しいというスタンスですので、内部統制は有効であるという評価をしているのですが、あらたは減損損失の計上時期が間違っているという立場ですので、会社が内部統制は有効であると言っているけれども、こんな多額の損失額が正しい時期に計上されていないのだから、それはちゃんちゃらおかしい、ということで不適正意見が出されています。

内部統制が不適正意見で、決算数値が限定付適正意見なのは変だ、と思うかもしれませんが、極論すれば、内部統制がズタボロであっても、監査人が監査の結果見つけた誤りを、会社が全て修正してしまえば、決算数値は適正意見ということはあり得ます。

 

決算報告の直前に、あらたが不適正意見を出すのでは、という報道がありましたが、限定付適正意見と不適正意見がどう違うのか、ということについて触れたいと思います。

下の図は、監査報告に関する基準である、監査基準委員会報告700からの抜粋ですが、黄色くマーカーを塗った部分が今回の監査意見です。

限定付適正意見と不適正意見の分かれ目は、財務諸表の重要な虚偽表示(今回の場合は減損損失の計上時期の誤り)の財務諸表に及ぼす影響が、重要かつ「広範」であるかどうかとなります。

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「広範」であるか、ここにせめぎ合いがあったと考えられるのですが、監査基準の定義上は以下のようにされています。

「広範」-虚偽表示が財務諸表全体に及ぼす影響の程度、又は監査人が十分かつ適切な監 査証拠を入手できず、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能 性のある影響の程度について説明するために用いられる。  財務諸表全体に対して広範な影響を及ぼす場合とは、監査人の判断において以下のいずれ かに該当する場合をいう。

① 影響が、財務諸表の特定の構成要素、勘定又は項目に限定されない場合

② 影響が、特定の構成要素、勘定又は項目に限定される場合でも、財務諸表に広範な影響 を及ぼす、又は及ぼす可能性がある場合

③ 虚偽表示を含む開示項目が、利用者の財務諸表の理解に不可欠なものである場合 

広範の定義を書いているのに、②で広範な影響と書いていて、最早「広範」が何かがわからなくなってきます・・・

今回の場合は、WECの減損損失の計上時期という、特定の勘定科目や項目に該当するとは思いますが、③がなかなか致命的ですね。

常識的な肌感覚では、連結売上高が5兆円の会社で6,500億円が間違っていたら、財務諸表の利用者は誤った意思決定をすることになるでしょうから、不適正意見を出すことになると思います。

が、現実には限定付適正意見となりました。何故でしょうか?

報道では、あらたが間違っている金額を正確に言えないから、と見ましたが、見積の問題なので、正確に言い当てることは困難でしょう。監査報告書にも書いてあるように、6,500億円のうちの相当程度か全額が間違っているということについては心証を得ていますので、細かい金額がどうだろうと、どっちにしても決算数値が多額に間違っていることには変わりはありません。単なる理由付けのための方便に思えます。

東芝、あらた、銀行、金融庁東証、etc、様々な立場からソフトランディングを図った形跡が伺えますが、残念ながらこれ以上はわかりませんね。あらたはアメリカのPwCの影響を強く受けていると言われていますので、訴訟リスク等も勘案すれば不適正意見も当然かと思ったのですが。

 

 最後に、個人的には監査意見を「お墨付き」というような、カジュアルで誤解を招く新聞等の表現はやめて欲しいのですが、敢えて使わせてもらうと、16年度の最終赤字9,657億円のうち、約6,500億円の損失が誤って多額に計上されていること、15年度の最終赤字4,600億円のうち、約6,500億円の損失が少なく計上されていることを除いては「お墨付き」を与えた、ということになります。

うーん・・・このお墨付きのありがたくない感じ、正しい額の方が少ないのでは、と複雑な気持ちになりますね。