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お酒大好き会計士・税理士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士・税理士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

三井ホームの不適切会計と工事会計と監査

7月に三井ホームで不適切会計があった旨の報道がされましたが、8月2日に調査結果の報告と、平成28年度の有価証券報告書及び内部統制報告書の訂正がされました。

内容については、内部統制報告書の訂正報告書の一文を以下に引用します。
『当社リフォーム事業部門の一部の従業員が利益計画を達成したと見せかける目的で、売上原価の翌事業年度への先送り、未完成工事の売上前倒し等の不適切な会計処理を行った事実が判明し、過去2事業年度における当該不適切会計処理の決算への影響額が明らかとなりました。』

この事案が財務諸表に与える利益の影響額は約6千万円です。連結売上高が28年3月期で2,560億円、税引前利益で38億円もある大きな会社規模を考えると、この不正な会計処理が財務諸表に与える影響はかなり小さいのではないかと個人的に思います。あるいは、三井ホーム単体では、税引前利益が13億円ですので、影響は小さくないとして公表に至ったのかもしれません。
社内の関係部署で処理をするのでなく、過年度の財務数値を修正し、この不正な会計処理を防止するためのモニタリングが有効に機能されていなかったとして、財務報告に重要な影響を及ぼすことになる「開示すべき重要な不備」と判断したことは、会社のみならず、会計監査の点でも非常に大きな出来事だと思います。コンプライアンスの遵守を強く求める環境や、厳しい会計監査が背景にあるのではと推察されます。

これまでもゼネコンやハウスメーカーといった建築関係の業界では、数々の不正・粉飾会計事案がありました。何故このような事がよく行われるか、様々な要因があると思われます。例えば、ゼネコンが下請け・孫請けに対して力を持ちすぎている、業界慣行として原価管理に対する意識が低い、等々・・・
そこで、前置きが長くなりましたが、今回は、建築業界が決算数値の計上根拠とする、工事会計基準(特に工事進行基準)とそれを監査する難しさについて述べたいと思います。

私も色々な業種の会計監査を経験して来ましたが、ゼネコン・ハウスメーカー・不動産仲介管理業者等の会計監査にも数年間従事していました。そこでいつも思っていたことは、「難しい、数字が正しいか不安、会社の説明が本当か確証が持てない」こんな事が頭によぎります。恐らく他の同業者の方もそうでしょう。

何がそうさせるのか、それは工事会計、特に工事進行基準には「見積り」の要素が多く含まれるからです。
工事進行基準をごく簡単に説明すると、工事の進捗に従って売上や原価を計上するというものです。つまり、100のうち50が出来たら半分の売上と原価を計上します。言えば簡単ですが、家を建てたり、リフォームしたこと経験があればわかりますが、工事の見積価格、仕様、期間なんて変わることもざらです。会計的には、こういう部分を「見積り」というのですが、売上、原価、期間(進捗率)大きくこの3つに見積りの要素があるために、数字の正しさを立証するための監査も困難になります。日本公認会計士協会も、「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」を平成27年に出しており、有効な監査を実施するための細かな手続きを定めています。

今回の事案が具体的にどのようなものかは解りませんが、過去にはこんな例がありました。
事例①
・不正をした理由・・・売上の予算を達成しないといけないので、まだ出来ていない家を完成したことにする。
・監査の手続・・・完成リストからサンプルを抽出し、家を実際に視察しに行く。
普通にしていればバレます。しかし、この場合は、建設途中の家の資材を移動し、窓にはカーテンをかけ、表札もつけて、さぞ人が住んでいるように偽装していました。これでは、視察をしても不正が見抜けません。これで、本当は80しか売上計上できない家が、100の売上になりました。監査人は、施主に電話をしたり、隣人に「お隣さんは引っ越してきましたか?」とか聞けばよかったかもしれませんが、そんなこと普通はしませんし、したとして口裏を合わせされている可能性もあります。
事例②
・不正をした理由・・・利益が足りないので、原価を後で計上したい。
・監査の手続・・・工事のリストからサンプルを抽出し、売上と入金状況、請求書と原価額の一致を確認する。
この場合も、普通にしていればバレます。しかし、一部の工事を施主の引き渡し後の点検で問題があったために追加工事した、などの虚偽の理由で、工事業者と結託して、請求書の発送を遅らせます。こうすると、原価が後回しになるので、一時的には利益が増えることになります。特に小さな工事だと監査人が気付かない可能性は高いです。

このように、悪意を持って不正な会計処理をしようとすると、発見は非常に困難です。監査人は会社の不正な会計処理を発見することが目的ではありませんが、正しい数値が計上されていることを立証するために、あの手この手で監査手続をしています。

不正を防止するための最も重要なことは、会社の内部統制が効いていることです。事例の不正も、内部統制が有効であれば防げたでしょう。経営者の誠実性、社内環境、社風から始まり、業務マニュアル、承認状況、モニタリング、業務監査、内部監査等々、内部統制のサポートがないと会計監査だけでは実効性を持ちません。どの業界でも内部統制は重要ですが、特に建設業は高度で強力な内部統制を構築する必要があると思います。