お酒大好き公認会計士のつぶやき

大阪で会計事務所を営む公認会計士です。自分の趣味や社会の出来事、特に会計や税金について書いていこうと思います。旅行も好きです。ラスベガスに毎年行くのが目標です。

新たな役員報酬-リストリクテッド・ストックの成り立ちと今後の展開について

 平成28年度の税制改正により、法人税法上の損金算入の対象となる事前確定届出給与の範囲に、一定の要件を満たす譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)が含まれることになりました。リストリクテッド・ストックは数年間の一定期間は譲渡制限により市場で売買出来ないけれども、期限が到来すれば、その時点の株式の時価が報酬として得られるものです。会社経営陣が株主となることで株主目線の経営を促すことや、株価上昇=報酬の増加というインセンティブを与えることで、中長期的な成長戦略を目指す効果が期待されます。日経新聞でもこのリストリクテッド・ストックの導入を検討している会社が多いという記事も紹介されていました。

 

 役員に対する報酬制度に対する税法の考え方が大きく変わった事象ですので、私見を交えながら、このリストリクテッド・ストックについてお話ししたいと思います。

 

 法人税法上は、役員の給与が税務上の費用になるかについて厳格な要件があり、以前の規定では、事前確定届出給与に現物資産の支給は含まれないという文言がありました。しかし、28年度の改正では、条件を満たした役員の労働の対価としての譲渡制限株式が、現物資産の支給ではないと明記されたことにより、譲渡制限株式を事前確定届出給与として利用することが可能になりました。そして、株式交付等のスケジュールに係る要件(期限内の取締役会や株主総会の決議)を満たす「特定譲渡制限付株式による給与」は、税務署への届出は不要とされており、手続き簡便化のための実務的な配慮がされています。6月には経済産業省からリストリクテッド・ストック導入の具体的な手引書も発行されました。

 

 このような制度が整備されたのは、一義的には企業の持続的な成長を支えるためであり、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードに対応した報酬制度を示すことにより、機関投資家や利害関係者の期待に応える経営をアピールするためだと考えられます。手引書によると、日本企業のCEOの役員報酬の60%が固定報酬です。一方で、アメリカではインセンティブの変動報酬が90%にもなり、固定報酬は10%に過ぎません。また、欧米企業と日本企業の役員報酬額の差は広がるばかりです。グローバルに人材を獲得しなければならない現在の経営環境において、報酬制度の違いで優秀な人材を獲得できないことは、大きな経営リスクとなります。

 

 もちろん、日本でも40%はインセンティブ部分のある報酬体系となっていますので、何もない訳ではありません。役員の労働の対価として、自社の株式を1円で取得できる新株予約権を付与する、いわゆる1円ストックオプションや、信託を通じて自社の株式を取得し、役員に対して付与する、日本版ESOP(イソップ)が代表的な制度として挙げられます。何れも有用な制度ですが、新株予約権の価値査定や信託管理にはそれなりの費用を要するというデメリットもあります。リストリクテッド・ストックの場合は、株主名簿管理が中心になると考えられるため、前述した制度に比べると手間と管理費用は抑えられるのではないかと思われます。

 

 私もリストリクテッド・ストックを適用した会社に関与した訳ではありませんが、金融機関は導入に向けて積極的な営業を行っているそうです。まとめますと、リストリクテッド・ストックは税制上の問題もなく、実務的な負担も少なく、コーポレートガバナンスの観点からも有用であることから、今後決算を迎える会社や来年の3月決算の会社で多数採用されるのではないでしょうか。特に、自己株式を多く保有する会社は、新株発行の手続きも不要ですので、かなり使いやすい制度に感じられます。

 

 という訳で、職業会計人として仕事の面では会計・税務上の処理を勉強する必要がありますが、思った通りの常識的な処理だったので、自分のセンスはなかなかだと安心しました(笑。キーワード検索をかければ、処理方法はすぐに見つかると思います。

 

(注)本文中の意見的な部分は、個人的な見解であることをお断り申し上げます。